体の左右どちらか片方の比較的狭い範囲に、水ぶくれ(水疱)をともなう赤み(紅斑)を生じる病気です。多くの場合、まず赤い発疹(丘疹や紅斑)が生じ、その後赤くなった部分に水疱が生じます。疱疹とは水疱を生じる発疹の意味です。ごくまれに体の両側に帯状疱疹を発症する場合や、発疹がまったくでない無疹性の帯状疱疹もありますが、いずれも非常にまれで滅多に見られません。
帯状疱疹は顔や体に起こることが多く、体に起こった場合は体の片方(例えば右腹から右腰にかけて、など)に帯を巻いたような範囲に赤み・水疱が見られることがあるため『帯状』疱疹と言います。しかし顔や体以外にも、帯状疱疹は全身どこにでも起こります。
帯状疱疹の特徴的な症状として「痛み」があります。痛みを感じない患者さんもいますが、多くの場合何らかの痛みや違和感を感じることが多いです。痛みは「ぴりぴり・ちくちく」した痛みから「ずきんとした痛み」「夜も寝られないくらいの痛み」「電気・雷に撃たれたような強い痛み(電撃痛)」までさまざまです。また顔に発症した場合は頭痛、首や胸・背中に発症した場合は肩こりなどをともなう場合も多いです。
痛みは皮膚の症状(赤みや水ぶくれ)に数日〜1週間程度先行して起こることがあります。この痛みだけで発疹がまだ出てない状態では、帯状疱疹と診断することは困難で、整形外科や内科を受診し鎮痛剤などを処方されている患者さんもいます。
痛みは帯状疱疹の初期には軽くても、経過中に悪化し、不眠や食欲不振を起こすくらいの強い痛みを生じたり、帯状疱疹が治ったあとも後遺症として帯状疱疹後神経痛として数年から数十年続くこともあります。
またまれには痛みだけでなく、神経麻痺などの合併症を生じることがあります。頭〜顔の帯状疱疹では眼や耳の障害、手足の帯状疱疹の場合はしびれや運動障害、腹部〜腰部の帯状疱疹は腹筋の麻痺によってお腹がふくれたり便秘や排尿障害が起こることがあります。
帯状疱疹はこういった合併症や帯状疱疹後神経痛などの後遺症を予防しあるいはできるだけ軽くするためにも、なるべく早く皮膚科を受診して治療を始めてください。
帯状疱疹は水ぼうそうと同じ、水痘・帯状疱疹ウィルスが原因です。ただし水ぼうそうと異なり外から入ってきたウィルスではなく、以前水ぼうそうにかかったことがある人に発症する、自分の体内に潜む水痘・帯状疱疹ウィルスによって起こる病気です。
水疱瘡にかかると、水痘・帯状疱疹ウィルスは生涯その人の体内から消えることはありません。ウィルスは体の中の大きな神経の一部の神経節という場所に潜んでいて、この状態のウィルスに対して効果を発揮する治療法はまだありません。この潜伏中の水痘・帯状疱疹ウィルスが何らかの理由でその人の体内で再び増殖し活動を始めた状態、それが帯状疱疹です。
帯状疱疹はウィルスが潜伏している神経に沿った範囲に起こるため、体の片側の一部に発症するのです。
水痘・帯状疱疹ウィルスが増殖・活動を始めるきっかけはさまざまです。水ぼうそうにかかったり予防接種を受けたりして獲得した免疫は、時間とともに徐々に弱くなり、10〜20年以上経つと充分ウィルスを抑えていられなくなる程度に低下します。また病気や病気の治療などにより何らかの理由で免疫力が下がった状態になると、ウィルスが活動し始めることがあります。とくに思い当たる理由がなく帯状疱疹を発症することも多いのですが、加齢や疲れ、病気やストレスなどが帯状疱疹の引き金になり発症することがあるので注意が必要です。
【生活指導】
帯状疱疹は体が弱っていたり疲れているサインかもしれません。このため十分な休息をとる、バランスの取れた食事をする、などといったことを心がけてください。また何か体に異常を感じる症状があれば、内科等を受診し帯状疱疹のきっかけとなるような病気が隠れていないかどうか相談してください。中高年以降の方は念のためガン検診等を受けることもおすすめします。
帯状疱疹の患者さんは周りの人に水ぼうそうをうつす可能性があります。水ぼうそうにかかったり予防接種を受けたりしたことがなく、水ぼうそうに対する免疫を持っていない人になら、大人にも子供にも水ぼうそうは感染します。帯状疱疹は水ぼうそうほど伝染力は強くなく、一般的には空気感染しないとは言われていますが、念のため免疫のない人、とくに赤ちゃんや子どもには近づかないようにしましょう。また空気感染の可能性は低くても、接触感染はします。触るとうつりますので、とくに赤ちゃんや子どもを抱き上げたりしないように注意してください。またタオルやリネン類、食器なども共有しないようにしてください。どちらも洗って乾燥させた後なら大丈夫です。
このように、帯状疱疹は自分の体を休めるために、また他の人に感染させないために、あまり伝染力は高くはないものの、インフルエンザや水ぼうそうと同じと考え、治療中あるいは医師の指示がある間は、なるべく学校や仕事を休んで自宅で安静に過ごし、休養してください。
【薬物療法】
・抗ウィルス薬(内服・点滴)
水痘・帯状疱疹ウィルスの増殖を抑えます。抗ウィルス薬はウィルスを殺す薬ではなく、あくまでウィルスが増えるのを抑える薬です。このためウィルスが増えきって症状が完成してからでは、抗ウィルス薬の効果も上がりません。合併症や後遺症を防ぐあるいはなるべく軽くするためにも、インフルエンザの治療薬と同じく、帯状疱疹と診断されたらなるべく早く投与を開始することが必要です。そのためにはおかしいと思ったら、早めに病院にかかって相談してください。
抗ウィルス薬には内服薬と点滴で使われる薬があります。現在使用されている薬は内服でも高い効果を発揮しますので、帯状疱疹の治療には多くの場合、まず抗ウィルス薬の内服が処方されます。
抗ウィルス薬は服用してすぐ効果がでるものではありません。抗ウィルス作用を発揮するためには、充分に体内の薬の濃度が上がる必要があります。このため服薬開始から効果が出始めるまで2〜3日かかります。飲んですぐに効果が感じられないからといって自己判断で服薬を中止したり、あるいは複数の病院にかかって処方された薬を同時に服用するようなことはやめてください。
抗ウィルス薬を一度に多量に摂取したり、また短時間に続けて服薬したりすると、副作用が起こりやすくなります。とくに高齢の方は若い頃に比べて腎臓の機能が相対的に落ちているので、薬の副作用が起こりやすいのです。抗ウィルス薬は副作用を防ぐためにも、医師の指示どおりにきちんと服用してください。
内服薬が処方できない方、例えば嚥下困難のある方や、あるいは重症の帯状疱疹の場合は、抗ウィルス薬の点滴が行われることがあります。
抗ウィルス薬には外用剤もありますが、内服薬や点滴治療に較べ帯状疱疹に対しては非常に効果が低いため、外用剤で帯状疱疹を治療することはほとんどありません。
・鎮痛剤・神経痛治療薬
帯状疱疹は痛みをともなうことが多い病気です。痛みの原因はウィルスの活動によって神経がダメージを受けることによる、一種の神経痛です。神経痛は痛みがあるのに薬を使わずむりにがまんすると、がまんすることそれ自体が神経にダメージを与え、より神経痛を悪化させます。このため痛み止めや神経痛を緩和するための薬が処方されたら、医師の指示に従ってきちんと服用してください。
また痛み止めや神経痛の治療薬は、帯状疱疹の経過とともに、処方される薬が変わることがあります。帯状疱疹の初期と、皮膚の症状が治まり急性期が過ぎた後では、神経の受けたダメージの状態も変わるため、それに適した薬も異なるからです。
・外用薬(創傷治療薬)
帯状疱疹に対し抗ウィルス外用薬はあまり効果がないため、治療に使われることは多くありません。帯状疱疹に使われる外用剤は主に、水疱や水疱が潰れたあとの傷に対して使用されます。このため水疱を保護したり早く乾燥させ、細菌の二次感染を予防する働きのある外用剤や、水疱が潰れたあとの傷を保護したり治りを促進させる働きのある外用剤などが使用されます。
・ペインクリニック
帯状疱疹が治ったあとも強い痛みが残る場合、神経痛の治療や疼痛緩和のための治療の専門医であるペインクリニックを紹介することがあります。